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仙台高等裁判所 昭和57年(ネ)182号 判決

控訴人

株式会社東北ミュージック

右代表者

木村肇

右訴訟代理人

鍋谷博敏

被控訴人

川上五郎

右訴訟代理人

瀬上卓男

主文

原判決主文第一項中金五一万八五九三円及びこれに対する昭和五五年一二月一二日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を超える部分を取消す。

右取消にかかる部分の被控訴人の訴を却下する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを九分し、その四を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証は、〈証拠〉を援用したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一控訴人がトモエ商工株式会社(以下トモエ商工という。)から譲渡を受けた債権の一二パーセントに相当する金員を被控訴人に支払う約束をしたこと、控訴人は右譲渡債権のうち三〇八〇万七四四三円を回収したこと、右約束の金員支払は控訴人の債権回収に被控訴人が協力するという停止条件が附されていなかつたことについての原判決の理由一ないし四(ただし、四については最初の二行のみ)の認定は、当裁判所の認定と同一であるから、これをここに引用する。〈証拠〉をもつてしても、右認定を覆すに足りない。

二〈証拠〉によると、本件訴訟が提起される前に、被控訴人、控訴人間に左記約束手形請求事件が係属したが、右訴訟の経過及び事案の概要は左記のとおりであることが認められる。

1  約束手形の内容

振出人控訴人、金額三一七万八三〇〇円、満期昭和五三年一月二一日、支払地仙台市、支払場所株式会社秋田銀行仙台支店、振出地仙台市、振出日昭和五二年一〇月二三日、受取人被控訴人

2  訴訟の経過

(一)被控訴人は右約束手形に基づき、金三一七万八三〇〇円及びこれに対する昭和五三年一月二一日以降完済に至るまで年六分の割合による利息金の支払を求める手形訴訟を仙台地方裁判所に提起し(同裁判所昭和五三年(手ワ)第一九号、同裁判所は昭和五三年五月二五日控訴人に対し手形金二七四万六五六一円及びこれに対する同年一月二一日以降完済に至るまで年六分の割合による利息の支払を命ずる手形判決をしたが、(二)控訴人の異議申立により、同事件は同裁判所昭和五三年(ワ)第五五一号事件として審理された結果、昭和五四年二月二六日、手形判決を変更して、控訴人に対し手形金五七万七三四四円及びこれに対する前同様の利息金の支払を命ずる判決がなされ、(三)被控訴人の控訴により、同事件は仙台高等裁判所昭和五四年(ネ)第九九号事件として審理された結果、昭和五五年一月一一日原判決を変更して手形判決を認可する旨の判決がなされ、(四)これに対し控訴人は上告したが、昭和五五年一〇月六日最高裁判所は上告棄却の判決(昭和五五年(オ)第五九二号)をし、右(三)の判決、(一)の手形判決は確定した。

3  事案の概要

右手形金請求訴訟の概要は、控訴人の手形振出及び被控訴人の手形所持の事実については争いがなく、争点は、(一)被控訴人において、(1)被控訴人はミュージックテープ類等販売を業とするトモエ商工の代表取締役であり、トモエ商工は菱和商工株式会社から商品を仕入れていたが、昭和五二年一〇月頃営業不振となつたため、同会社の斡旋により、その系列会社である控訴人に売掛代金債権全額を譲渡し、トモエ商工を廃業することとした、そして、昭和五二年一〇月二〇日被控訴人と控訴人との間に、トモエ商工はその売掛代金債権全額三二〇七万四七二〇円を控訴人に譲渡するが、控訴人は被控訴人に対し、右債権譲渡額の一二パーセントに相当する金額を、トモエ商工を退職することになる被控訴人の生活保障の趣旨のもとに、債権回収協力謝礼金名義で支払うとの契約を締結したが、(2)右手形は右謝礼金の概算払として振出されたもので、(3)控訴人はトモエ商工からの譲受債権のうち三一〇五万七一三〇円を現実に回収したから、右謝礼金を支払う義務がある、と主張したのに対し、(二)控訴人は謝礼金の支払約束をしたこと、その概算払として約束手形を振出したこと、及びトモエ商工からの譲受債権から現実に三〇二三万二一九五円を回収したことは認めるが、右謝礼金の支払は、被控訴人が控訴人の債権回収に際し、特約に基づく協力行為をすることが条件となつていたところ、被控訴人はなんら右の協力をしなかつたので、手形金の支払義務はない、とする点にあつた。

4  事件の結末

これに対し、前記2(三)の仙台高等裁判所の判決は、控訴人の謝礼金支払につき控訴人主張の被控訴人の協力義務があつたことを認めることはできず、控訴人がその譲受債権を現実に回収した金額は三〇八〇万七四四三円に達するので、これの一二パーセントにあたる謝礼金三六九万六八九三円を被控訴人に支払う義務があると判断し、右金額を超えない手形判決を正当として認可した。

三本件訴訟は、右仙台高等裁判所判決が認定判断した被控訴人の控訴人に対する謝礼金債権三六九万六八九三円と前記二、2、(一)の手形判決主文掲記の元本債権二七四万六五六一円との差額及びこれに対する遅延損害金を請求するものであることは、本件訴訟の記載及び前掲甲第三号証により明らかである。

四しかしながら、前記二の訴訟の内容及び経過に照らすと、同訴訟は約束手形金請求ではあるが、その原因債権である本件謝礼金債権を右手形金の限度において請求したものと解されるところ、同訴訟において右謝礼金債権は前記手形判決のとおり確定された(被控訴人は右手形判決において棄却された部分の請求について異議申立をしなかつたので、該部分の不存在も確定された。)のであるから、同訴訟の訴訟物について右のとおり既判力が生じており、被控訴人は本件謝礼金債権中右手形金を超える部分しか新たに請求することができないものというべき、右既判力に包含される部分の請求については、不適法といわなければならない。

五してみると、被控訴人の本訴請求は、当事者間に争いのない控訴人の譲受債権の回収金額三〇八〇万七四四三円の一二パーセントに相当する三六九万六八九三円から前記手形金(元金)三一七万八三〇〇円を控除した五一万八五九三円、及びこれに対する履行期である訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年一二月一二日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、その余は不適法として却下を免れない。

よつて、民事訴訟法三八六条、三八四条、九六条、九二条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(佐藤幸太郎 石川良雄 宮村素之)

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